皆既食中の色に注目しよう!
皆既食の最中、月は真っ黒にならず、しばしば「赤銅色」と表現されるような赤黒い色で観察されます。このことについて詳しく解説します。
皆既月食中の月が赤黒い色になる理由
地球の本影は、地球が太陽光をさえぎることでできます。しかしこの本影は、真っ暗にはなりません。これは、地球に大気があるからです。地球の大気を太陽光が通過するときに、大気がまるでレンズのような役割をして、太陽光が屈折するのです。屈折した太陽光は、影の内側に入り込むようにその経路が曲げられます。
またこのとき、波長の短い青い光は、空気の分子によって散乱されてしまい、大気をほとんど通過することができません。(昼間の空が青いのは、この散乱した青い光を見ているからです。)一方で波長の長い赤い光は散乱されにくいため、散乱で光が弱められながらも、大気を通過することができます。朝日や夕日が赤く見えるのもこのことが原因で、太陽光が地平線方向から入り大気の中を長く通過しているために、私たちの目には散乱されにくい赤い光が多く届きます。
このように、大気によって散乱されにくい赤い光だけが、弱められながらも大気を通過します。そしてこのとき、大気によって屈折して経路が曲げられて、本影の中に弱い赤い光が届きます。この光が月面を照らすため、皆既食中の月が赤黒く見えるのです。
月食ごとに異なる色
しかし、皆既食のときの月がいつも同じような色に見えるわけではありません。地球の大気中のチリが少ないときには、大気を通り抜けられる光の量が多くなるため、オレンジ色のような明るい色の月が見られます。一方で、大気中にチリが多いと、大気を通り抜けられる光の量が少なくなるため、影は暗くなり、灰色に見えたり、あるいは本当に真っ暗で月が見えなくなったりします。
このように皆既月食のときの月の色が異なることは、フランスの天文学者ダンジョンが20世紀初頭にすでに気づいていました。彼は独自に「ダンジョンの尺度(スケール)」という色の目安を用いて、月食の色を調べました。この尺度を表にまとめます。
尺度 | 月面の様子 | キャンペーンで用いる色 |
---|---|---|
0 | 非情に暗い食。月のとりわけ中心部は、ほぼ見えない。 | 黒 |
1 | 灰色か褐色がかった暗い食。月の細部を判別するのは難しい。 | 灰色またはこげ茶色 |
2 | 赤もしくは赤茶けた暗い食。たいていの場合、影の中心に一つの非常に暗い斑点を伴う。外縁部は非常に明るい。 | 暗い赤 |
3 | 赤いレンガ色の食。影は、多くの場合、非常に明るいグレーもしくは黄色の部位によって縁取りされている。 | 明るい赤 |
4 | 赤銅色かオレンジ色の非常に明るい食。外縁部は青みがかって大変明るい。 | オレンジ |
ダンジョンの提案した尺度は肉眼でも測定が可能で、また皆既月食の色を表すのにも都合が良いため、現在でもよく紹介されています。しかし少々わかりにくい表現も含まれるため、このキャンペーンでは表のような簡単な色に読み直して、みなさんに報告していただくことにしました。図は色の見本です。参考にしてください。
皆既食中の色に対する火山の影響
20世紀初頭、ダンジョンは「皆既食中の色の変化」と「太陽黒点活動の変化(11年周期)」が密接に関連していそうだという報告をしていました。現在では、この関連性については否定的な見方がされています。
一方で、非常に大きな火山活動があったあとには、しばしば皆既月食中の月が暗く黒っぽく見えるということがわかってきました。火山灰や火山噴出ガスが成層圏(地上約15キロメートル以上)にまで達するような大きな火山活動が起こると、大気中に火山灰や噴出ガスから生成される小さなチリが長い間浮かんで漂います。このチリによって、大気を通り抜けられる光が少なくなるため、皆既食中の月が暗くなるのだと考えられています。
1982年12月30日に起こった皆既月食では皆既食中の月が真っ暗になり、月がほとんど見えませんでした(ダンジョンの尺度で0相当)。これは1982年春に噴火したメキシコのエルチチョン火山の火山灰等が成層圏に達し、影響をおよぼしたからだと考えられています。また1993年6月4日に起こった皆既月食でも、皆既食中の月のほとんどの部分は灰色で、わずかに赤みがかった月として観察されました(ダンジョンの尺度で1相当)。こちらは1991年6月、フィリピンにあるピナツボ火山が大噴火を起こし、長く漂った火山灰等の影響が2年後にまで残ったからだと推測されています。
皆既食中の月がどんな色になるのかは、実際に観察してみないとわかりません。どのような色の月が見られるのか、ぜひその目で確かめてみてください。