撮影方法
このページでは、一般的なデジタルカメラによる金環日食の写真撮影について解説しています。
減光した望遠鏡にカメラを取り付けるなど、さらに進んだ撮影方法については、天文雑誌や解説書などをお読みください。
撮影のときにやってはいけないこと
金環日食では、太陽の一部分が月に隠されることなく、ずっと見えています。一部分であっても太陽の光と熱は大変強いため、目や器材を傷めないよう注意が必要です。
以下のことをしないよう、十分注意してください。
- カメラを太陽に向けようとして、肉眼で太陽を探す
肉眼で直接太陽を見ることになりますので、目を傷める危険性があります。 - カメラのファインダーで太陽を見る
カメラに減光フィルターをつけていない場合、ファインダーを通して肉眼で太陽を見ることになるため、目を傷める危険性があります。レンズの種類によっては、肉眼で見るよりも危険性が高いことがあります。
また、カメラに減光フィルターをつけていても、カメラ用の減光フィルターは人の目に使うことを考えて作られたものではないため、目を傷める光が十分に弱くなっていない可能性があります。減光フィルターをつけていても、カメラのファインダーで太陽を見るのはやめましょう。 - 減光フィルターをつけずにカメラを太陽に向ける
太陽の強い光や熱で、カメラ(特に受光素子)が壊れる可能性があります。
金環日食を撮影するのに必要な器材
金環日食を撮影するには次の器材が必要です。
カメラ
焦点距離の長いレンズ(望遠レンズ)で撮影できることが必要です。
太陽は案外小さいですので、広角や標準のレンズでは、太陽の形がはっきりわかるほど大きくは写りません。携帯電話に内蔵されているカメラで日食を写したいという方もいらっしゃると思いますが、携帯電話内蔵カメラのレンズは多くが広角レンズのようですので、太陽の形を写すのには適していません。
写真1は、焦点距離が約150mm(※1)のレンズで撮影した太陽です。焦点距離がある程度長いレンズですが、それでも、太陽がそれほど大きくは写っていないことがわかります。
露出は、できればマニュアル設定できるほうがよいでしょう。露出が自動の場合、カメラが夜景と勘違いして露出が過剰になるなど、適正な露出で撮影できない可能性があります。
また、ピントも、できればマニュアル設定できるほうがよいでしょう。一般的な写真と違って、自動でのピント合わせがうまくいかない可能性があります。
※1 35mmフィルム換算。
減光フィルター
太陽の光を10万分の1程度に弱めるための減光フィルターが必要です。
フィルターなしでは、適正な露出での撮影はできません。そればかりでなく、太陽の光や熱が、カメラの受光素子などを壊してしまうおそれがあります。
減光フィルターなしで撮影してみた写真が写真2です。
F11まで絞り値を大きくし、シャッタースピードを1600分の1秒まで速くしましたが、太陽の形は写っていません。写真1と同じ範囲を撮影していますが、太陽の光が強すぎて、ハレーション(※2)やスミア(※3)が発生してしまい、太陽がどこにあるのかさえわかりません。
※2 レンズやカメラ内部の反射などによって生じる光のにじみ。
※3 受光素子が光を受けきれなかったために生じる線。写真2では縦に伸びた太い線として見えています。
三脚
カメラを固定するための三脚が必要です。
望遠レンズによる撮影となりますので、手持ちでは、(絶対に無理、とまでは言えませんが)カメラを太陽に向けることさえ簡単ではありません。三脚を使うことで、カメラを確実に太陽の方向に固定することができます。
撮影の手順
減光フィルターの取り付け
カメラのレンズに減光フィルターを取り付けます。
減光フィルターは、見た目はほとんど真っ黒に見えます。減光フィルターをカメラに取り付けた状態では、ファインダーはたいへん暗くなり、太陽以外のものはまったく見ることができなくなります。
カメラの設定
カメラのレンズを交換できる場合、望遠レンズに交換します。ズーム機能がある場合には望遠側に設定します。
ピントをマニュアル設定できる場合、ピントを無限遠に合わせます。
カメラの感度が変えられる場合には、なるべく感度を低くします。(カメラの感度は、「ISO100」のような数字で表されています。数字が小さいほうが、感度は低くなります。)
カメラの絞りとシャッタースピードをマニュアル設定できる場合、それぞれを適正な値に設定します。10万分の1の減光フィルターを使い、感度がISO100の場合、絞りをF8程度、シャッタースピードを250分の1秒程度に設定します。(※4)
太陽の大部分が欠けた状態や金環日食の状態になると、太陽の光はやや弱くなりますので、露出を適正に保つためには、シャッタースピードを1段階から2段階長くするなどして露出を増やすとよいでしょう。
太陽は大変明るいため、雲が多少あっても撮影できる場合があります。雲が太陽の光を弱める分、シャッタースピードを長くするなど、露出を増やして撮影してみましょう。
※4 ここでの値はあくまで参考値です。事前に自分のカメラで太陽を撮影して、適正な値を決めてください。
三脚への取り付け
カメラを三脚に取り付けます。
方向合わせ
カメラを太陽に向けます。
このとき、太陽を直接肉眼で見ないよう、十分注意してください。
また、カメラのファインダーで太陽を見るのは、減光フィルターを使っていても危険な場合があります。ファインダーで太陽を見るのはやめましょう。
撮影対象を液晶画面に表示させる機能のあるカメラでは、液晶画面を使ってカメラを太陽に向けるとよいでしょう。液晶画面に表示された太陽を見ることで目を傷めることはありません。
太陽は、時間の経過につれて動いていきますので、ときどき方向を合わせ直す必要があります。
ピント合わせ
ピントをマニュアルで設定でき、撮影対象を液晶画面に表示させる機能のあるカメラでは、液晶画面に表示された太陽像を見ながら、正確にピントを合わせましょう。
撮影
シャッターを切って撮影します。
撮影した写真をすぐに確認できる場合には、写真を確認して、露出がより適正になるよう、絞りやシャッタースピードなどを変更するとよいでしょう。
絞りやシャッタースピードを何段階か変えて撮影しておくと、後でゆっくり、適正露出の写真を選ぶことができます。
日食時の太陽と景色の両方が写った写真
「金環日食で環の形になった太陽を景色と一緒に写したい」という方もいらっしゃると思います。
しかし、写真1を見るとわかるように、減光フィルターを取り付けた状態では、太陽以外のものは何も写りません。
太陽と景色が同時に写った写真にするためには、多重露光(※5)や画像の重ね合わせが必要となります。
ここでは、画像を、パソコンの画像ソフトで重ね合わせる方法を説明します。
※5 「多重露光」は、1枚の写真の中に2回以上の露光をすることです。多重露光をするためには、カメラにそのための機能が備わっている必要がありますが、多重露光の機能が備わったカメラは多くありません。
写真の合成
まず、2枚の写真を撮影します。
1枚は、写真1のように、減光フィルターを使って、太陽だけを撮影した写真です。
もう一枚は、写真3のように、まったく同じ範囲を、減光フィルターをつけずに撮影した写真です。ただし、太陽が撮影範囲に入っていると、太陽が露出過剰になってしまいますので、それを避けるために、太陽が撮影範囲から出て行ってしまった後(または、太陽が撮影範囲に入ってくる前)に、景色に露出を合わせて、写真を撮影します。
この2枚の写真を、パソコンの画像編集ソフトウェア上で合成(※6)します。写真4は、そのようにして作成した写真です。
同じ撮影範囲で色々な時刻に太陽を撮影すると、太陽が形を変えながら移動していく様子がわかる写真を作ることができます。
※6 例えば、景色の写真の手前に太陽の写真を重ね、太陽の写真に「比較(明)」などの属性を指定します。ただし、ソフトウェアによって操作や属性の名称は異なります。詳しい画像編集ソフトウェアの使い方については、それぞれのソフトウェアの説明書をご覧ください。