このページでは、彗星(ほうき星)や、ハートレイ彗星(103P/Hartley)についての基本情報について解説します。
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彗星(すいせい)は、「ほうき星」とも呼ばれる天体です。多くの人は、夜空に伸びる長い尾を持った天体を思い浮かべるかもしれません。また、綿雲のようにぼうっと淡く見えるのも特徴的です。では彗星とはどんな天体なのでしょうか。
彗星とは、太陽系の中を運動しながらガスや塵(ダスト)を放出する小天体のことを指します。彗星本体の構造は「汚れた雪玉」とも例えられ、たくさんの塵を含んだ氷の塊だと考えられています。この中心部は「核(彗星核)」と呼ばれます。
ガスや塵を放出する天体と説明しましたが、いつも放出しているわけではありません。彗星が太陽にある程度近づいたときに、核の中にある氷が溶け出してガスとなり、吹き出るのです。この時、ガスといっしょに塵も吹き出てきます。核から吹き出たガスやダストは、核の周りを覆い、ぼんやりとした「コマ」を形成します。私たちはそのコマを見ているので、ぼうっとした姿として見えるのです。
彗星のもう1つの特徴である「尾」には、2種類あります。1つ目は、核から吹き出した塵でできた尾で、ダストの尾と呼ばれます。太陽と逆の方向に伸びますが、彗星が移動しますので少しカーブします。ダストの尾は白っぽく見え、吹き出した塵の量が多いほど、また尾が伸びている方向と地球との位置関係がよいほど、長く伸びた尾をみることができます。
2つ目は、核から吹き出したガスでできた青っぽい尾で、ガスの尾とかイオンの尾と呼ばれます。太陽風によって吹き飛ばされて、太陽とは逆の方向にまっすぐ伸びます。一般的にはダストの尾の方が明るく見えますが、彗星によってどちらかしか見られないこともあります。
なお、今回のハートレイ彗星で尾が見えるかどうかは、実際に観察してみないとわかりません。ただ、少なくとも肉眼ではっきり見えることは、ないと思われます。
ハートレイ彗星(103P/Hartley)(注1)は、1986年3月15日にハートレイさん(Malcolm Hartley)によって発見された彗星です。明るさは17〜18等と大変暗いものでした。この時、彗星はすでに太陽からも地球からも遠ざかっているところでした。
その後の観測から、この彗星は太陽のまわりを約6年かけて回っている短周期彗星であることがわかりました。ハートレイさんが単独で発見したものとしては、二個目の短周期彗星であることから、当時は「ハートレイ第二彗星」と呼ばれました(注2)。
ハートレイ彗星はその後、1991年、1997年、2004年に太陽に接近しました。特に1991年と1997年には地球にも比較的接近し(ともにおよそ0.8天文単位)(注3)、約8等級の明るさとなり、双眼鏡や小型の望遠鏡でも観測されるくらいに明るくなりました。
2004年から6年後となる2010年、ハートレイ彗星は再び太陽に接近します。最も太陽に近づくのは(近日点通過)10月28日で、その時の太陽から彗星までの距離は約1.06天文単位です。
今回最も注目されるのは、地球との位置関係がよいことです。10月20から21日にかけて、地球との距離は約0.12天文単位となり、1986年の発見以降では、最も地球に接近します。地球最接近から太陽に最接近する10月下旬、あるいはその直後となる11月上旬に、ハートレイ彗星は過去最も明るく観測できると期待されています。
なお、彗星の光度の予測は難しく、人によってその明るさ、また最も明るくなる時期が異なっています。現状、最も明るい時で4〜6等程度と予想されています。これは、市街地を離れた比較的空の暗い場所では、かろうじて肉眼で確認できる明るさです。
ハートレイ彗星(103P/Hartley)に付与されている「103P」という記号は、「短周期彗星」の番号を表しています。周期彗星とは、太陽のまわりを回っている(公転している)彗星のことで、特にその周期が200年以内であることが確定した場合などには、短周期彗星の番号が付けられます。したがって、ハートレイ彗星の場合は、103番目に登録された短周期彗星であることを意味します。
また、ハートレイ彗星は「ハートレイ第二彗星(103P/Hartley 2)」と呼ばれることもあります。ハートレイさんは、この彗星を発見する前にも、短周期彗星である別の「ハートレイ彗星」(100P/Hartley)を発見しているからです。短周期彗星の番号を付けるようになった1995年よりも前は、このように「○○第一彗星」「○○第二彗星」などと区別して呼ばれていました。
しかし、現在は短周期彗星番号によって区別されるため、「第二」などを付けずに呼ぶことが正式となっています。
ただし、ハートレイ彗星の場合は、このルールが決定した1995年以前に発見された彗星ですので、慣例的に「ハートレイ第二彗星」と表しても構わないことになっており、現在でも時々このように呼ばれています。
1天文単位は太陽から地球までの平均距離に相当し、キロメートルに換算すると1億4959万7870キロメートルになります。
ハートレイ彗星には、「EPOXI(エポキシ)」という探査計画の探査機が向かっています。元々は、2005年1月に打ち上げられた「ディープ・インパクト」というアメリカ航空宇宙局(NASA)による探査計画の探査機でした。
このディープ・インパクト探査は、2005年7月4日にテンペル彗星(9P/Tempel)の彗星核に衝突体(インパクター)を衝突させ、それを観察するというものでした。計画は成功し、テンペル彗星の構造について多くの知見を得ることができました。
ディープ・インパクト探査の後も、この探査機自体が稼動していたことから、2007年に「エポキシ(EPOXI)」と名前を変えた新たな探査計画が始まりました。そして、2010年11月4日、ハートレイ彗星(103P)のごく近くを通過し、観測を行う予定となっています。
探査は順調に進んでおり、9月5日にはハートレイ彗星の撮影に成功しています。今後、どのような姿が捉えられるのか、注目されます。
EPOXIの探査機は、11月4日22時59分(日本時)に、ハートレイ彗星の彗星核(本体)までおよそ700kmの場所を通過しました。この際に、非常に鮮明な彗星核の撮影に成功しました。
探査機が捉えたハートレイ彗星の彗星核は、細長く、また中ほどがくびれており、まるでボーリングのピンのような奇妙な形をしていました。大きさは、長い部分がおよそ2kmで、くびれている部分の幅は約400mと報告されています。
また核の各部からは、彗星らしくガスが放出している様子も捉えられました。